<2019/8/16:録画したクレイジージャーニーを見て>
広島でハーブを中心に農家をやっている梶谷さんという方の特集。人となりは苦手なタイプ。何かをやりながらもののついでに見るだけだったけれども、意外と面白くて見入ってしまった。
この梶谷さん。日本のミシュランレストランの人たちに大人気の農家さんということで、珍しいハーブを作るなどして出荷しているらしい。「珍しい」ハーブを作って出荷しているだけならなるほどアンテナが優秀な人なんだなと思っていたけれども全然違った。
徹底したレストラン研究をされていて、「今」をときめく料理人たちが「必要としている」食材をしっかりとリサーチしたうえでそれを栽培して提供しているとのこと。ミシュランで星1つのお店をはじめとして数百ものお店が契約町であるとのこと。
その梶谷さんが世界一と評価されたデンマークのお店をリサーチのために訪問した様子も放送されていたが、見た目も内容もまったくおいしそうには感じない。でも大切なのはそれが世界一のお店と評価を受けているということ。つまり、「食通」と言われる人、もしくはそれを気取っている人はその味をありがたがるわけで、そういった人たちがこれ見よがしに日本に持ってくるものは、価値のあるものとされる。
万人に受けるものにはならないが、響く層には徹底的に響くわけで、そういうビジネスの場合は単価を(大げさかもしれないけれども)いくらでも高くできる。そういった人たちは味とか満腹感にお金を払っているのではなく、「世界一」とか「食通が認めた」とか「ミシュランの」とかいういわゆる「ブランドの価値」にお金を払っているからだ。一般的な価値観なんて関係ないし、一般的な価値観と通じていてはいけないわけだ。
だから、そういったところで必要とされている食材は、万人には売れないだろうけれども売れるところには徹底的に売れるし、そこでトップリーダーになってしまえば先駆者利益を確保できるわけでその分の旨味も乗っかってくる。つまり、「あの梶谷さんが作った野菜を使っています」と言えることはそのお店が出す料理の価値を高めることにもなるだろうからだ。
結局何を言いたいかというと、ビジネスという戦場において、自分が戦おうとしている戦場に置いてどこ部分でどのように戦っていくかをしっかりと見極めることは本当に大切な世の中になってきている、ということだ。大量消費の時代ではない。マスで戦う時代ではない。マスで戦おうと思ったら戦場を広くとらねばならず、すると資本を持っているところにはかなわない。
「戦場」の定義も柔軟に変えていかなければならない。今までの定義にこだわり固執しすぎるのではなく、新しい価値を創造して提供する。もちろんそれもプロダクトアウトではだめだ。自分たちが良いと思っているものを提供していればきっとみんな振り向いてくれる、なんて独りよがりではいけない。そこにどんなニーズがあるかをしっかりと探り、それに合致するものをストレートに提示するだけでなく、そこに新たな価値を提供してニーズに合わせていく、もしくは今あるニーズとうまく連動させる形で新たなニーズを掘り起こしていく、そんな視点が必要だ。
梶谷さんでいわく、「農家の人は一流のお店で食事をすることはない。だからそういったお店の料理人がどんなニーズを持っているかわからない。そこで自分(梶谷さん)は勝負するんだ」と。もちろんそれだけでなく、世界の最先端のお店に行ったり、日々、野山に分け入って新たな食材探しをしながら、それを自ら「新しい価値・可能性」として料理人に提供・売り込んだりもしているのだろう。ただの農家ではなくちょっとしたプロデューサーだ。
なるほど、「農家」なんていう言葉でくくってしまうと気づかないけれども、「農家」=「食」と考えれば本来はそうあるべきなのだな、と気づかされる。良い勉強になった。自分ができることをやるだけではいけない。