偏差値を誤解の無いように

偏差値って捉え方が案外難しいですよね。結果的に数値だけが独り歩きしてしまいがち。大学受験を経験した人間はある程度分かっていると思いますが、経験していない人もいるわけで、親の視点で子供が受験・・・となった時の少しでも役に立てれば、ということで偏差値の見方をまとめてみます。

 


 


 

図を作ってみました。都道府県ごとに異なる問題のテストが実施されて、その同じテストを都道府県ごとに集計した時に、子供たちがどれくらいの得点を取ったのかを図に表しています。そのテストはできるだけ難易度が同じになるように揃えて作りましたが、新潟と東京で平均点が異なる値となりました。新潟県の子供たちが学力が低いのかもしれませんが、問題が異なる前提なので新潟の子供たちが受けたテストの難易度が高くて平均点が低かっただけかもしれません。ただこういう結果だったとします。

ここからわかること(1)「母集団によって偏差値は異なる」 : 新潟と東京では母集団の点数幅が異なりました。東京の方がより高得点帯に分布しているため平均点が高め(グラフからは60点くらいでしょうか)になります。一方、新潟の方は平均点が40点くらいです。偏差値は平均点を取った人間を「50.0」として、その「平均点から離れて高くなればなるほど55→60→65→70・・・」と数字は高まっていき、平均点から離れて点数が下がれば下がるほど「45→40→35→30・・・」と数値が下がってきます。つまり、新潟の生徒は40点で偏差値50ですが、東京の生徒は60点で偏差値50となります。点数が異なるけれども偏差値は同じ、となります。

ここからわかること(2)「問題が違うテストの偏差値を同じに考えてはいけない」 : テストで難易度を揃える努力をしても同じになることはありません。ですから、あるテストAで偏差値50の生徒とあるテストBで偏差値50の生徒を比較して「学力が同じ」とは言えないのです。大学入試に関わる模試は山ほど存在します。ベネッセの「進研模試」、東進の「全国公開学力テスト」、河合塾の「全統模試」、駿台予備校の「駿台模試」などなど。それぞれ難易度も受験者の母集団も異なるので、進研ゼミで偏差値50と言われても、別の模試では偏差値40でした、ということは当たり前のことです。一般的に進研模試は全国の高校で多くの生徒が受験する比較的難易度が低めの模試で、首都圏や都市部の私立進学校の生徒は受験しないことも多いようなので最上位の難関大学を目指す人間にとっては進研ゼミの偏差値を当てにしてはいけない(入試本番でライバルになるような高学力の生徒がいない中で良い順位、良い偏差値をたたき出しても参考にならない)といった定説?があります。

以上のことから、特に注意したいのは「高校の偏差値」です。高校入試は都道府県ごとに難易度と傾向が異なり、母集団の学力帯も異なります。よって、地域ごとに実施される高校入試に向けた模試も異なりので、ネット上に表示されている「高校の偏差値」は「まったくあてにはならない数字」となります。これを上記のような仕組みがわかっていて論じるのであれば良いですが、わかっていなくて論じている人も中にはいるような気がするのでちょっと怖い・・・中には仕組みをわかっていてそこにあえて触れずに偏差値という数字だけを喧伝するような誤った情報を振りまいているような人間もいるので注意が必要(某脳科学者の茂木氏は、こういった人たちに警告を与えているものと信じたい)。

例えば「みんなの学校」という便利なようで怪しげなサイトがあります。ここでは新潟高校理数科が72、新潟高校普通科が71という値で偏差値が紹介されていますが、新潟県で実施されている最大の業者模試である「新潟県統一模試」では高校の偏差値を明示していませんので、この数字はどこの誰が出している数字何だろうな、とは思ってしまいます。進研ゼミでも受講生のデータを参考に偏差値を紹介していますが、データが少なすぎてあてにはできませんし、少なくとも「71」とか「72」といった表記は見当たりません。そのような状況ではありますが「みんなの学校」にて偏差値「71」の高校を他の都道府県で探してみると愛知の「旭丘高校」などが当てはまるようです。では新潟高校と旭丘高校でその先の大学進学実績を比較してみると、方や新潟高校は東大・京大が16人であるのに対して、旭丘高校は71名と大きな違いがあります。これはまさに母集団の違いですね。ですから同じ「71」という偏差値にくくられているからと言って、新潟高校と旭丘高校の学力帯は同じだ、とは言えないわけです。

ただし、それぞれの県の中で「71」という偏差値は、学力の中央値として表される偏差値「50」からは「21」も離れているので、新潟県の子供たちが新潟高校に合格する際の難易度と、愛知県の子供たちが旭丘高校に合格する際の難易度は同程度だ、とは言えます。仮に「愛知県の子供が愛知県の模試では偏差値65程ですが親の転勤で新潟の高校を受験することになりましたというような場合、「僕は偏差値65だから新潟でも偏差値65で狙える学校を目指そう、新潟高校はちょっと難しいかもしれないし・・・」と判断するのは早計です。愛知県で偏差値65の子供が新潟県の模試を受けた場合、不通に偏差値70を超えてくる可能性が十分にある訳です。それは上記の大学進学実績からも類推できますし、文科省が実施している全国学力調査(平成6年)からも中学生の数学では愛知の方が平均が5点上だという事実からも類推できます。つまり、愛知の方が新潟より子供たちの学力帯が全体的に高いのだと言えます。こういったところを見ても、(ちょっと乱暴ですが)その都道府県内における合格難易度は同じ「71」だけれども、その高校の平均学力値は愛知県の旭丘高校の方が(少なくとも大学受験結果からは)より高い、偏差値は同じだから同じ学力の高校だとは言えないということになります。

以上のことから、偏差値は「その母集団における自分の位置取り」を把握したり、「目指している母集団からの現時点での距離」を測るために有効です。偏差値を上げることが目的なのではなく、またそれによってその人間の価値が変わるとかいうものではなく、ある生徒がある都道府県においてある高校を目指す、とした際に、目標となる学力と自分の学力の差を適切に把握し、どうやって目標達成のために必要な努力をしていけばよいかの目安を把握するために最適なツールが偏差値だ、という理解ですね。

塾屋をやっていると、「定期テストで何点くらいとれていれば○○高校に行けますか」と聞かれることがあるのですが、目安はお伝えしますが「厳密にはわかりません」と解答することになります。それは上記の理由です。その生徒が通っている中学校にいる子供たちの学力帯もわからなければ、その中学校で行われている定期テストの難易度もわからないからです。もちろん、経験上「恐らくこれくらい」ということは言えますし、およそそれが外れることはありませんが厳密ではないのです。ですから塾屋はより厳密なアドバイスをさせていただくために「模試を受けてください」という言い方をします。そのあたりの意味合いと大切さを少しでもご理解いただけると幸いですね。

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